uwasa no sinsou
「ね、不二はもう読んだ?今期の校内新聞?
「?ううん、まだだけど。もう出てたの??」
いつもなら活字なんてものに興味も楽しみも持たないような菊丸が珍しいこともあるものだ・・・と不二は小首を傾げる
「何、そんな面白い記事あったの?」
「ありあり、大あり!ほら、ちょっと前にウチの部に新聞部の取材がきたじゃん。
その時のインタビュー記事が出てるんだけどさ。」
そう言われればそんな事もあったかな・・・と不二は記憶を探る。
「・・・確かその時の取材のメインって・・・」
「おチビ。」
「あ・・・」
そうだった。好調に勝ち進むテニス部の動向に加え、異例の1年レギュラーの彼を取材
させてほしい、と新聞部の生徒達が通ってきたことを思い出す。
当のリョーマはそんな面倒な事はごめんだ、と彼らをかわしていたが、結局、顧問の竜崎
に手を回されたことで逃げられなくなり、渋々それに応じていたが。
「ふぅん。で、どんな事が書いてあったの??」
でも、その事については特に話題には上らなかったので、リョーマがどんな受け答えをした
かは知らない。
彼のとりそうな態度は察しはつくが、それを新聞部は一体どんな形で記事にしたのだろうかと、
不二はそちらの方に興味をそそられ、菊丸に尋ねる。
「うん。意外に可愛い趣味してるんだなって、ちょっと笑えた。」
「・・・は?」
「でも思いがけずストレートだったな。ま、オレも嫌いじゃないけど?」
「・・・何の話?」
「ほら、新聞部の“恒例の質問”だって。」
何となくかみ合わない話に不二が眉を寄せれば、菊丸がそう付け加える。
「オレ達も聞かれたじゃん?好みのタイプって奴。」
「・・・ああ・・・」
恒例の質問とは、新聞部が取材をした人物に好みのタイプを聞くことで、校内新聞の目玉部分にも
なっているものだ。不二も以前記事に書かれる際に質問を受けている。
菊丸はどうやらその記事部分を面白い、と評していたらしい。
「・・・で越前の好きなタイプってどんな子だって?」
「どんな子だと思う?」
何故だか少し早くなる鼓動を感じながら、さりげなさを装ってそう聞けば、何にも知らない菊丸は楽し
そうに言葉を返してくる。
「さあ・・・」
「ポニーテールの似合う子、だってさ。」
「・・・ポニーテール??」
「そ。なかなかシンプルだけどツボついてるっぽくない??」
「・・・はぁ・・・」
「結構具体的だからさ、あの記事読んじゃうとポニーテールしてる子はみんなおチビのファンに見え
るよな。ある意味やってくれたじゃん、って感じしない?」
「・・・」
「あいつのファンクラブの女の子たちも髪長いから、早速髪型変えてきたりして。」
「・・・・・」
「?どったの、不二??」
不意に黙り込んでしまった不二に小首を傾げて彼の顔を覗き込めば、何か考え事でもしているのかどこかぼ
んやりしたような表情をしており、菊丸は眉を寄せる。
「?ふーじ??」
「え・・・あ・・・と、ごめん、で、何だったけ?」
「?何って、別に何でもないけどさ。どうかした訳??」
「いや、別に・・・あ、僕もちょっと見てこようかな?それ??」
「新聞?うんうん、図書室の前に貼りだしてあるよん。一緒に行こうか??」
「いいよ、あ、ほら、あっちで誰か英二の事呼んでるし。」
「ホントだ、何だろ??」
“・・・やれやれ・・・”
素直に自分から離れ、別のクラスメートの輪の中に入っていく菊丸の背中を見ながら、不二は救われた思いとと
もに苦笑いした。
・・・どうしようかな?
その場しのぎでああは言ってみたものの、実はそれ程見たいとも思わない・・・むしろ見たくないくらいであったが、
行くと言ってしまった手前、ここにいてはおかしいと思われるだろう。
菊丸が戻ってきて、一緒に行こう、と言われるのはよけいに嫌だし。
仕方ないかな・・・
小さくひとつため息をついて不二は椅子から立ち上がった。
休み時間という事もあり、その新聞の前にはそこそこの人が集まっていた。
生徒の頭越しにそれを眺めれば、まず、彼の写真が自分の目を引く。
写真ですら圧倒的な存在感があることに半ば感心しながらも、彼のインタビュー部分の記事を拾って目で追っていく。
想像した通り、彼のコメントは実にシンプルなもので、あっという間に読み進み、問題の箇所にたどり着く。
“ホントだ・・・”
その箇所もやはりシンプルで、先ほど菊丸の言った通り”ポニーテールの似合う子“と書かれているのみだったが、それ
を目に留めた時、胸をちくりとかすめる痛みを感じ、不二は慌てて顔を上げる。
“!”と、視界の端に見慣れた姿が映ったような気がして、そちらを振り返った不二は軽く息を呑んだ。
「え・・・ちぜん・・・?」
見間違いかと思い、目を見張るが、どこかせかせかした足取りでこちらに向かって歩いてくるのはまさにリョーマで、不二は
驚きに目をしばたく。
お互いちょうど廊下の端と端にいるので、ちょっとした距離があり、リョーマは俯き加減に歩いているので、どうやら自分には
気づいていないらしい。
声をかけようか、どうしようか、と迷っていると、軽やかな足音と共に女子生徒が現れた。
彼女達は二人連れで、どうやらリョーマを追ってきたらしく、リョーマの背中に声をかけると両脇に回り込み、なにやら声高に
話し始める。
その彼女達は二人ともしっかりとポニーテールをしていて、不二は思わず固まる。
そんな彼女達をうるさそうにいなしていたリョーマだったが、ふとその視線がこちらを向いた。
“あ・・・”
距離があることだし、気づかれないかも・・・と思ったが、リョーマは自分の姿に気づいたようで、驚いたような顔をしてこちら
を見ている。
そんなリョーマの表情に、まるで隠れて彼のことを覗き見していたような気分になり、後ろめたさに似た気持ちが湧き起こってきた
不二は慌てて彼に背を向ける。
背後でリョーマの声が聞こえたような気がしたが、不二は振り返らず足早にその場を後にした。
結局、教室に戻るのも気が進まず、不二は屋上へと足を向けていた。
天気はいいが少し風があるせいか思ったよりも人影はまばらで、不二はほっとするような思いで息をつき、そして苦笑いした。
そんなつもりは全然ないのに、ここに来るまでの間もつい女子生徒の髪形に視線を送ってしまう自分に気がついて。
“ポニーテールしてる子はみんな彼のファン・・・か。”
菊丸の言葉と先ほどのリョーマに寄り添う女子生徒の姿が脳裏をよぎり、それがどうしたんだろう、別にいいじゃないか・・・と思い
つつ、自然とその手は自分の髪に触れていた。
肩先に付くかつかないかの長さの髪。
自分としてはこれでも長いと思う時もあり、これ以上は伸ばす気もない。ましてやポニーテールなんて論外だ。論外だけど・・・
しばしためらった後、不二はそっと後ろ手で髪をひとつに束ねる。
予想通り手のひらに収まる髪の束は少なく、短くてたよりない。
ともすれば滑り落ちそうになる髪の毛を何とか束にしながら注意深く上へと持ち上げていったが・・・
「!あ・・・」
上がりきるかな、と思ったところであえなく髪はさらさらと指から零れ落ち、不二は小さく声を上げた。
・・・何やってるんだか・・・
己の取った行為に自嘲の笑みを浮かべて肩をすくめ、乱れた髪を撫でつけていると、
「見つけた。」
聞きなれた声が背後から聞こえ、不二は慌てて振り返った。
「え・・・ちぜん。」
「探したっす。」
・・・そこには軽く息を弾ませているリョーマがいて、少し怒ったような顔をして不二を見つめていて。
「どうしたの?」
その理由はわかってはいたけれど、あえて何も気づかないふりをしてそう聞けば
「どうしたの、はこっちのセリフっすよ。」
そう言って更に眉間に皺を寄せ、リョーマが口を尖らせたのに不二は苦笑した。
「さっきオレに気づいてたでしょ?どうして行っちゃったの??」
「どうしてって、君、他の人と話してたじゃん。」
あえて女子生徒を“他の人”と言い換えた事に気づいたのかリョーマが大きくため息をつき、肩をすくめた。
「あれは、あっちが一方的に話しかけてきてただけだよ。」
「でも、君のファンでしょ?ポニーテールしてたし。」
「え?」
「新聞、見たよ。」
平静を装い、不二はリョーマに笑みを向ける。
「君のタイプの子、ポニーテールの似合う子、なんだってね?」
「・・・は・・・?」
「知らなかった。君ってば髪の長い子好きだったんだね??」
「・・・え?ち、ちょっと待ってよ。何それ、ポニー・・・何とかって。オレ、よくわかんないんだけど?」
「・・・え?」
見ればリョーマは彼に似合わず戸惑ったような表情を浮かべており、今度は不二が眉を寄せる。
「だって君、新聞部の取材にタイプの子の事答えてたじゃない?ポニーテールの子が好みだって。」
「???オレ、そんな事言ったかなぁ・・・」
そう呟きつつ、リョーマは必死に記憶を探っている様子だったが、やがて小さく声を上げると同時にばつの悪そうな顔を作り、ちらりと不
二を斜め見た。
「どう、思い出した?」
「・・・うん、でもあれは・・・適当に言った事っす。」
「適当?」
「質問された時、ちょうど隣にオバさんがいたんす。で、考えるのも面倒くさくてああいう感じって言っただけなんすけど。」
「え?・・・じゃ、あれは新聞部の子が適当に書いたってこと?」
・・・そういえば、インタビューを面倒がるリョーマを無理に連れていったのは竜崎だったな、と今更ながら不二は思い出す。
テニス部期待のルーキーの好みのタイプが“竜崎顧問”ではさすがにはばかられたのだろう。それにしても新聞部の生徒はその辺りを上手に
ごまかしたものだ、と不二は感心すると同時に疑問を抱く。
「じゃ、君には好みのタイプってないわけ?」
「好みのタイプも何も先にオレの”好き“が固定しちゃってるからさ。」
その疑問に実にあっさりとそう答え、リョーマはその瞳をいたずらっぽく閃かせる。
「あの時、タイプって言葉の意味がピンとこなかったんだけど、今考えればそこのところ公表しちゃってもよかったかもね。」
「?そこのところって??」
「あんたが好き、ってこと。」
「!」
にやり、と笑ってぬけぬけとそう言われ、意表を突かれた不二がどんな顔をしていいか戸惑っていると、
「何なら今からそこのところ訂正してきてもいいけど。」
そんな自分の反応を楽しむかように言葉を重ねられ、不二は慌てて眉を寄せ難しい顔を作ると、そっぽを向いた。
「でも、しばらくポニーテールは君のファンの間で流行るだろうね・・・っていうか、ポニーテールの子はみんな君のファン
に見えるだろうけどね。」
「そうかな?まぁそうだとしてもそんなの気にする事ないよ。」
皮肉交じりの自分の言葉をこれまたあっさりと返してくるリョーマが小憎らしく、全く人の気も知らないで・・・と軽く睨めば、
彼はきょとんとしたような顔をしていたが、やがて何かを思いついたのか、ねぇ、と小首を傾げた。
「あんたの髪の長さだったらあの髪型出来ない?」
「・・・え・・・」
いきなり何を言い出すのか、と驚いて目を見張る不二にリョーマが好奇心に満ちたまなざしを向ける。
「うん、横とか結構長いし、大丈夫っぽいじゃん?」
「・・・僕にポニーテールをやらせるつもりなの?」
「・・・ダメ?」
・・・こんな時ばかり思い切り年下の顔をして自分を見つめてくるリョーマをずるい、と思いつつ、不二は自分に向かって伸びてくる手を
避けるべく後ろに下がった。
「無理だよ。長さが足りないって。」
「え?そう??・・・でもやってみないとわからないじゃん。」
「・・・」
ついさっきやってみたからわかるんだ・・・とは口が裂けても言えず、返事に躊躇していると、その隙を付いてリョーマは再び距離を詰
めてきた。
「ね・・・ダメ?」
「・・・・・」
そのまま背伸びをし、今度は両手を伸ばして包み込むように髪に触れてきたリョーマに再度抗おうとしたが、彼に甘えるような瞳を向け
られ、不二は諦めたようにため息をついた。
「・・・好きにすれば?」
リョーマの指に誘われるままにその身体を屈めれば、彼はやった、と実に嬉しそうに笑うと早速その手を動かし始めた。
「・・・っ」
「あ」
髪をかきあげるその指の動きは思いがけずくすぐったく、思わず身を捩れば、その動きで束ねかけた髪が逃げたのかリョーマが小さく声
を上げる。
「・・・じっとしててよ。」
「だってくすぐったい。」
「文句言わない。」
そう言って再び自分の髪に取り組み始めた彼の顔は真剣そのもので、こうなったら絶対に引かないリョーマの性格を知っているだけにそれ
以上は口を挟めず、不二は苦笑いして口をつぐんだ。
髪を耳にかけられ、ゆっくりと後ろ髪を掬われる。
まるで壊れ物でも扱うかのように慎重かつ丁寧に髪を纏め上げていくその指の動きはやはりくすぐったく、それを我慢する為に不二は瞳を
閉じる。
「・・・ヤバい。」
・・・と、髪を後ろにひとつに束ねた時点で不意に小さく声を上げ、リョーマがその手を止めた。
「?どうしたの??」
目を開けば、先ほどよりもずっと近い距離に彼の顔があり、その驚いたような困ったような複雑な表情に不二はやっぱり、と小さく笑った。
「ほら、言った通りでしょ。」
「・・・え・・・」
「上げるだけの長さが足りないんでしょ?髪??」
君、人のいう事聞かないから、と言葉を重ねれば、一瞬きょとん、としたような顔をした後リョーマが苦笑した。
「そういう意味で言ったんじゃないんすけどね。」
「?」
だったら何だというのだろう、リョーマの言葉の意味が飲み込めず不二が小首を傾げれば、彼はその苦笑を深くする。
「予想はしてたけど、それ以上だった。」
「???」
「ホント、これ以上髪を上げなくてもすごくいいっすよ。」
「・・・え・・・」
「首筋とか、耳とか、こうしてるだけでも充分ご馳走様って感じ。」
「!」
そう言うリョーマの声は甘く、向けられる瞳も甘やかで、いつもよりもあらわになった耳と彼との距離の近さを意識した不二は慌てて彼か
ら顔を背ける。
「じゃあ、もういいよね?」
これ以上調子を狂わせられないうちにと、不二はリョーマから身体を引き、一歩大きく後ろに下がった後、その場を仕切りなおすべく、彼
を軽く睨む。
「言っておくけど、僕はこれ以上髪を伸ばす気はないから。ポニーテールなんて論外だよ。
「別にいいっすよ。そんな事。」
「え?」
「髪が長くたって短くたってあんたはあんただってことで価値があるんだからさ。」
「越前・・・」
「ま、他の奴には見せたくないってのはすっごくあるけどね。」
そう言うとリョーマは再び歩み寄ると手を伸ばして軽く不二の髪をかき上げ、首筋に指を這わす。
「このまま食べたいくらいっす。」
「!え、越前!!」
そう言って伸び上がったリョーマの唇が優しく首筋を喰む感触に、不二は慌てて身を捩ると彼の頭を叩いた。
「こら!調子に乗るな。」
「!いってぇ・・・」
でも言うほど堪えている様子はなく、その瞳は笑っていて、今日は彼に振り回されっぱなしだな、と不二は苦笑する。
「・・・ねぇ、わかってよ?オレをこんなにドキドキさせるのはあんただけだって事。」
「え?」
「オレの“好き”はここにあるんだからさ。」
「越前・・・」
表情を改めて自分の腕を捕まえ、そう言ったリョーマの声はとても甘く優しく響き、不二はくすぐったいような、でもとても満ち
足りた気持ちになる。
「・・・はいはい。」
再び彼の求めに素直に応じて身体を屈めながら、でもやっぱりしばらくはポニーテールの子を気にしてしまうだろうな、と不二は内
心で苦笑し目を閉じたのだった。
これは誕生日プレゼントと称して、さるお方に押し付けた代物ですが、女の子不二と思われてしまったといういわくつきのものです(笑)
楽しんでいただけたら私はもうどちらでもいいんですが、ちょっくら可愛らしすぎたかもしれませんね〜 でもヤキモチ不二大好きなんで;;
某ファンブックを見て以来ずーっと気になっていた噂の真相(笑) ポニーテールの似合うコって今時のコが言うかしらん?きっとリョーマ的
にはこんなところだろうと大予想(笑)しました。不二のポニーテールは何の違和感もない気がします(爆)
指の綺麗な人にも思うところありなので機会がありましたら書いてみようかな・・・と画策中です(笑)
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